2015/03/30
京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻環境衛生学講座教授
高野裕久先生の「環境汚染とアレルギー」の講演を拝聴いたしました。
化学物質の増加に代表される環境汚染とアレルギー疾患との関連を
講演くださいました。
その内容の一部を紹介します。
粒子状成分の一つであるPM2.5は粒径2.5㎛以下の大きさで
化石燃料や燃料産物等、工業由来の物質が多くを占めます。
PM2.5の重要構成成分であるディーゼル排気(DE)とアレルギー疾患との
関わりをお話しされました。
ディーゼル排気(DE)はガス成分と粒子成分から構成されています。
粒子成分は元素状炭素を核とし、その周囲や内部に硫酸塩、
有機化学物質等が付着しています。
この粒子成分中の脂溶性化学物質群がアレルギー疾患増悪に重要です。
化学物質がアレルギー疾患に与える影響では、環境化学物質である
フタル酸ジエチルヘキシルとアトピー性皮膚炎との関連を示されました。
フタル酸ジエチルヘキシルはプラスチックの可塑剤として頻用されています。
マウスの実験系では、フタル酸ジエチルヘキシルの曝露で
アトピー体質マウスの皮膚炎、好酸球性炎症が悪化しました。
ベンゾピレン、スチレンモノマー、フタル酸ジイソノイル等化学物質の
関連も示唆されました。
増悪機序としてアジュバント効果のみでなく、
様々な作用点が関与することが明らかにされつつあります。
黄砂では、加熱黄砂とアレルゲンが加わると、元来(非加熱)の黄砂と
アレルゲンで起こっていたアレルギー反応が減弱することから、
黄砂に付着している成分がアレルギー反応を惹起している可能性があります。
粒子径が100㎛以下のナノ粒子もアレルギー疾患に影響を及ぼしている可能性があります。
例としてカーボンナノチューブやラテックス粒子を挙げられました。
以上の様に大気浮遊中の粒子状物質、黄砂等はもちろん、
食品や食物用のディスポーザブル容器、建材や日常生活用品等に含まれている可能性が
ある化学物質、ナノマテリアルなど身の回りに存在する環境汚染物質がアレルギー疾患を
悪化させる可能性を、具体例を挙げながら示してくださいました。
日頃接することの少ない物質名が多く出てきましたが、
患者さんの悩みの深い分野でもあり、大変勉強になりました。
日常診療で個々の患者さんに、アレルギー疾患の増悪因子として
環境化学物質を科学的に証明することは容易ではありません。
しかし、なかなか特定できないアレルギー疾患の悪化因子を考える過程で、
環境化学物質の関与を患者さんとともに探っていくことは、
患者さんの日常生活を改善するうえで非常に有益と考えます。